お気に入りの帽子を自分で洗い、縮ませ後悔
もう15年くらい前だろうか、とても気に入っていた冬用の帽子があった。
色はグレーで、ツバの部分がファーの生地で、見た目にも暖かいおしゃれな帽子だった。
家から少し遠いデパートの1階で買った物だ。
買った時のシチュエーションは、正月明けの初売りで、いつになく購買意欲がたくさんあり、自分のために何か励みになりそうなものを買いたいと思っていた時、見つけた帽子だった。
デパートの小さな鏡の中では、とても似合う帽子を被った自分がいた。
当時、私は35歳の専業主婦で、子供もまだ幼く、いつも私の目は子供の姿を追っていた。
公園に行く時も、幼稚園に送って行く時も、いつも冬はその帽子を被っていた。「その帽子、素敵ね」「よく似合うわ」とママ友にもよく言われたほど、よく被っていた。
春先にクリーニングに出して、丁寧に冬まで保管して、何年も同じグレーのファー付きの帽子を被っていた。
ある冬、その年はじめてその帽子を被ろうとして、箪笥の抽斗から取り出したとき、グレーの色が色あせていて、しかも分厚い表生地に毛玉がついていることに気がついた。
もう、年季が入ってきたから、仕方がないわねと、少しガッカリしたことを覚えている。
クリーニングに出すのはもったいない!自分で洗ってみた結果・・・
その冬が終わり春になって、はじめてその帽子をクリーニングに出さずに自分で洗濯した。
クリーニング代が値上げした年だったと思う。こんな古い帽子をクリーニングで高いお金を出して洗ってもらうのは、もったいないわと思ったのだ。
セーターを洗うために常備している毛糸洗いの洗剤を洗面器にいれて、押し洗いすればいいと思った。
クリーニングならば、きっとドライクリーニングしかしないだろうから、水洗いすればきっとスッキリとすると期待していた。
ただ、冬なので押し洗いするのも水道水では手が冷たすぎる。それにきっと帽子も冷たい水には生地が硬くなってしまうような気がして、手が入れられる位の温度のお湯で押し洗いした。
お湯の方が、汗や化粧などがついていたとすると油脂が溶けて綺麗になるだろうと思ったのだ。
押し洗いして二度すすいだあと、バスタオルに挟んで、手で脱水した。冬の晴れた日だったので、形を整えて外に干した。
本当に、晴れた冬の日は、よく乾く。小春日和のような日だったので、夕方早いうちに洗った帽子を取り込むと、すでに乾いていた。二度目のすすぎの時、柔軟剤を入れていたので、香りもとても良くなっていた。クリーニング代が浮いて、しかもいい匂いになって、気持ちがよかった。
けれども、なんとなく、生地が縮こまった気がした
柔軟剤で生地自体はなめらかになっているのだが、生地の目が詰まったような気がした。
だが気のせいかなと思って、毛玉になっているところを丁寧に取り除いて、また次の冬の帽子の出番まで箪笥の抽斗にしまいこんだ。
そして次の冬、帽子を取り出して被ってみると、きついような気がした。頭が大きくなったのではないかと疑ったが、帽子が縮んでいたのだ。
それでも、何日かは被ったと思う。ただただ、その帽子が好きだったし、せっかく自分で手間をかけて洗ったのだからもったいないと思ったから。
それでも、帽子で頭を締め付けられて、いい気分ではない。それに、子どもも大きくなっていて、公園についていくことがなくなつたので、歩くことも減った。
だから帽子を被るという防寒をする頻度もあまりなくなった。そんな理由から、いつの間にか、その帽子は被らなくなり、いつの間にか必要のないものとして捨ててしまった。
けれども、あのとき自分で洗濯をせず、クリーニングに出しておけば、縮むこともなく、いつまでもお気に入りの帽子のまま、存在していたのではないかと思う。今でも残念に思う。